米澤穂信『ふたりの距離の概算』感想 – いろんな距離が描かれた物語

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★★★★☆

米澤穂信先生の古典部シリーズ第5巻、『ふたりの距離の概算』読み終わりました。
ネタバレ注意です。

まず、この作品の話しの構成が好きですね。
回想がたくさん入りますが、実時間は全てマラソン大会がスタートしてから、ゴールするまでです。
その中で、謎が始まり、コースの中で情報を集め、ゴールすると同時に謎も解決させます。
その、マラソンルートと、謎解決のルートがぴったり重なっているところが、うまいなあと思います。

そして、タイトルでもある「距離の概算」が、本作品のテーマだと思います。
「距離感」とも言い直せるでしょうか。

これは、単にマラソンの距離だけを表しているわけではありません。
様々な登場人物の、人間関係の距離感にもかかっています。
マラソン内での距離と、人間関係の心の距離、この2つの意味を持たせているところが、憎い仕掛けですね。

では、具体的にどんな心の距離感が描かれているのか。

わかりやすいのは、新入部員である大日向と、「友達」の距離感ですよね。
大日向は、その子と友達でいたいけど、向こうの距離感があまりにも近くて怖くなっている。
つまり、その子の距離の測り方は間違ってるって思ってるんですね。
やはり、あまりにも距離を詰め過ぎると引かれてしまうものです。
まあ、その子の場合は病的な精神もあるので、またややこしいですが。
そういう犯罪にも手を染めちゃう友達に対して、大日向はまた距離の取り方を悩んでいるわけですね。

次に面白いと思ったのは、ホータローとえるの距離感です。
1〜3巻ぐらいでは、2人はどこか形式ばった会話をしているように感じました。
謎を解くという、目的のために協力しているだけというか。
それが、4巻になって、えるが自分の身の上話をホータローにし始めます。
「遠回りする雛」の最後、桜の木の下での会話ですね。
ここでグッと距離が近くなったように思います。
そして本作である5巻、2人で新入生歓迎のために座っているときの会話は、非常に打ち解けています。
ホータローが冗談を言ったり、えるの間違いをホータローが指摘して、えるがむくれたりします。
もうイチャイチャしてるようにしか見えません。
それぐらい、ふたりの距離は縮まってるんだなと思います。

そして、サトシと摩耶花の距離も変わってますね。
これまで、サトシは摩耶花の事を遠ざけていました。
そして、4巻のバレンタイン事件で、付き合ったのか付き合ってないのか、わからない状態で終わりました。
その後の本作では、明確に2人が付き合っているとわかる描写があります。
サトシは今までのことを摩耶花に話して、3日間謝り続けたと。
ここからは私の予想ですが、最初は怒っていた摩耶花も、サトシに対しては「もう、福ちゃんはしょうがないんだから」とか言って許してあげちゃうと思います。
それで、ふたりの距離はもっと近づいたんでしょう。

あと、地味に面白いのはホータローとサトシの距離感。
この二人は、最初からずっと距離が変わってないんですよね。
仲が良いのは確かなんだけど、色恋沙汰を相談しあうほど距離が近くない。
ある一定の線以上は距離を詰めないんですね。
それでも、お互いを尊敬して、信頼しあっているのはヒシヒシと伝わってきます。
なんか、そういう距離の取り方もあるんだなって勉強になりました。
ベタベタしてるわけじゃないんだけど、強い結びつきのある距離感です。

そして最後に、初対面の人に対する距離の取り方が、古典部メンバーそれぞれで違っていて面白いです。
もちろん、初対面の人というのは、新入部員である大日向です。
ホータローはまさにいつも通り、特に意に介さず、自分から距離を縮めようともしません。
摩耶花もわりと淡白だけど、ちゃんと人並みには仲良くなろうとします。
サトシは、むしろ距離を詰めるという行為がないように思いますね。
最初から人を分析しているような、そんな距離感から入ります。
なので、初対面の相手と、仲の良い相手で対応がほとんど変わらない。
最初っからサトシスタイルなんですね。
自分の世界を持っている、サトシならではです。

この中では、えるが1番距離を詰めるように思います。
それは多分、えるの誠実さがそう思わせるんだと思います。
普通の人は、会ったばかりの人や、どうでもいい人の事を真剣に考えたりしません。
でも、えるは会って数ヶ月の大日向を怒らせてしまったことを、本当に辛くなるほど真剣に考えて、誠実に謝りに行こうとします。
そうやって、まっすぐ人と向き合っているから、えると他人の距離感は縮まっていくんでしょうね。

いやー面白かったですね。
「距離感」というテーマが見つけられて良かった。
これから色んな人の感想を読んで、他の人の読み方も見てみたくなるような作品でした。
古典部シリーズ最高!


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